入賞作品

グランプリ 最優秀作品賞

田邊 雅彦 さま
『しろいうさぎとくろいうさぎ』 文・絵:ガース・ウィリアムズ 
訳:松岡享子 
出版社:福音館書店

我が家には、絵本専用の本棚があります。3人の子供達に、それぞれ買ったり、もらったりして、襖1枚ほどの大きさの本棚が絵本だけで、いっぱいになっています。汚れたり壊れたりした本ほど、思い出が詰まっていて、子供達が大きくなっても捨てることができませんでした。

しかし、1冊だけ巣立って行った本があります。「しろいうさぎとくろいうさぎ」という絵本です。
モノトーンに近い色あいと細かく描き込まれた表情が、おだやかで優しいお話を引き立てます。お話は、いつも仲良しの白い雌ウサギと黒い雄ウサギが、お互いに好きで、ずっと一緒に居たいという気持ちに気付き、森の仲間たちの祝福を受けて結婚すると言うシンプルなお話ですが、大きくなってからも、ふと本棚の中にこの絵本を見つけ、この本いいお話だったねと口にするような絵本です。娘が大きくなってからは、いつか仲良しの黒いうさぎが現れ、仲間たちに祝福されて幸せになりますようにと、玄関の絵本用の本棚の正面に飾っていました。誰かが、別の本を飾っても、ネコが蹴落したりしても、黙って元の場所に飾っていました。

娘も年頃になり、仲良しの黒いうさぎも現れ、交際ののち、結婚することになりました。すると、黒いうさぎのお友達が、2次会で流す動画の取材をしたいと我が家まで、やって来ました。取材も終わり方になり、何か、内緒にしていた事とかありませんか?と聞いて来ました。そこで、絵本の事を思い出し、玄関に飾ってある絵本を見せ、いきさつをお話して、動画の上映後に渡して下さいと絵本を託しました。仲間たちの祝福を受けている時に贈られるのが、この絵本に一番ふさわしいと思ったからです。
絵本は今、娘夫婦の家の本棚に並んでいます。たまに泊まりに行った時に、可愛い子ウサギ達に同じ思いを込めて読んでいます。
物語と一緒に、思いも伝えられるのが絵本だと思います。

館長賞 さっちゃん賞

奥田 美和子 さま
『The Giving Tree』 作・絵:Shel Silverstein 
出版社:Harper Collins

初めてこの本に出会ったのは、二十歳のときでした。アメリカの本屋さんで立ち読みしました。私もこの木のようになりたいと思いました。その次にこの本に出会ったのも、同じ街の本屋さんでした。そのとき、私には小さい男の子がいました。当時の私は、この本の大きな木そのものでした。自分のことは忘れて、男の子の幸せだけを考えていました。その後、女の子も生まれました。私の態度は変わっていませんでした。自分のことは考えず、ただただ、子供達の幸せを考えました。

ある日突然、子供達の父親を失いました。深い悲しみの中にいた私は、乳ガンになりました。けれども、私はガンに感謝しています。だって、私に、悲しみのために命を失うことがあることを教えてくれたのですもの。死んで小さな子供達を置いていくことは、今はまだ、どうしてもできないと思いました。そして、元気になると、三人で生きていくために、会社勤務を始めました。
誰ひとり知らない新しい土地で、毎日一日中働きました。朝暗いうちに家を出て、夜も暗くなってから家に帰りました。家に帰って子供達にご飯を作って洗い物をした後は、立っていられないほど疲れていました。
はじめ、まだ5歳だった女の子は夜ベットで泣きました。お母さんは、変わってしまったって。もう、前のように本を読んでくれなくなったって。私も泣きながら、謝りました。そして、週末にはたくさん本を読む約束をしました。
長い学校のお休みには、子供達は二人きりで家で過ごしました。私は心配で胸が張りきれそうでしたし、そのためにまた何度も病気で倒れました。小さかった子供達には、私が突然働きに出たことが、なぜなのか、分からなかったのです。お母さんは、前は自分達を大切にしてくれたのに、今は仕事の方が大切になったのだと思ったのでしょう。

昔も今も、あなたたちの幸せが、私の幸せであるということを どうしたら分かってもらえるのでしょう。
大きくなったら、この本を読んで、お母さんのことを思い出してね。

笑顔賞

中島 理佳 さま
『かんかんかん』 文:のむらさやか 制作:川本幸 
写真:塩田正幸 出版社:福音館書店

3歳になる長男が初めて出会った絵本。小さな足をバタバタと動かし、キラキラと可愛い瞳を輝かせ、キャッキャと声を上げて笑ってくれた。初めての子育ては、その一瞬の笑顔のために必死だった。3年の時が経ち、次男が誕生。お兄ちゃんと同じ。初めての絵本、かんかんかんに大喜び。子育て3年生。肩の力を抜いて楽しむ余裕も出来た。けれど、ついお兄ちゃんにはキツく叱ってしまう後悔と反省を繰り返す日々。かんかんかんは思い出させてくれる。赤ちゃんだった頃の君を。絵本の素敵なところ。温かい記憶を、柔らかな眼差しを思い出させてくれるところ。

かんかんかん。

私が育った家からはいつも踏切の音が聞こえていた。
母は明るく元気な人だったけれど、今は心の病になって、笑顔が減ってしまった。

かんかんかん。

それは人間の営みの音。かんかんかんはまるで人生のよう。んまんまれっしゃは母の手料理。ぶぶうぶぶうは楽しい遊び。にゃにゃんにゃにゃんは友達かな。ないないばはワクワク、ドキドキ、悲しみも喜びも全て含めて、心動かされる素敵な出来事。そして、ばいば~いであっという間に人生の幕が降りる。とっても楽しそうなばいば~い。きっと「またね!」が、かくれんぼしているばいば~い。動物達の陽気な表情。
私には「ばんざ~い」に見える。ばんざ~いな人生であればいい。息子達がそんな人生を歩んで欲しい。母がもう一度あの笑顔を取り戻してくれればいい。人生のばいば~いが来る前に。
絵本のいいところ。前のページに戻れるところ。見えない不安や悲しみを喜びや笑顔に変えてくれる、魔法の言葉「ないないば」。昔は赤ちゃんだった、私の母にも届きますように。

元気が湧く賞

柴田 香 さま
『たぬきのちょうちん』 作:浜田廣介 絵:いもとようこ 
出版社:金の星社

わたしの祖母は「トミ子」という名前であった。小柄で、朗らかで、愉しいことが好きでよく食べよく笑う、近所の人気者。わがままだけど憎めない、かわいらしいひとだった。 共働きだった両親に代わり、わたしたち3姉弟を育ててくれた祖母は「だいすきな自慢のおばあちゃん」だった。大学を卒業したのち、わたしは初めての職に就き、生家を出た。毎日毎日慣れない現場でミスをしては怒られ、人間関係にも悩み、いろんな緊張とプレッシャーで空回りをしていた頃だった。いっぱいいっぱいになって家に戻ってきては、祖母とたくさん話をした。

「あんたはわたしに似とるけん、きっとだいじょうぶ」。
うんうんと話を聞いてくれたのち、いつも最後に祖母はそう言って励ましてくれた。
『たぬきのちょうちん』を手に取ったのは、それから10年ほど経ってからだったろうか。社会人として経験を重ね、もう「新人」とは呼ばれなくなった頃、おはなし会のために選んだ1冊がそれだった。ページをめくるとたぬきのおじいさんと孫に、祖母とわたしの姿がかさなった。
「おまえは、気がきく子ではない。しかしそれでもいいのだよ。なにか一つをしっかりおぼえて、やくにたてればそれでよい。やってみい。いっしょうけんめい、やろうとおもってまじめにやれば、ものになる。」
たぬきのおじいさんがまごのたぬきにかけるセリフで、私が一番好きなのはこの部分だ。いつ読んでもダイレクトに心の核の部分に届いてくる、魔法のような言葉である。

6年前に祖母は他界したが、この絵本を開くと、今でもわたしの傍に祖母がいて、あの優しい声で「思ったようにやってごらん」と背中を押してくれるような気がする。夜道を照らすちょうちんに化けたたぬきのように、なにか一つを自分のものにできる、そんな人にわたしも近づけているだろうか、おばあちゃん。