入賞作品

グランプリ 最優秀作品賞

今津 尚子 さま
『ラヴ・ユー・フォーエバー』 作:ロバート・マンチ 絵:梅田俊作 
訳:乃木りか 出版社:岩崎書店

私が、この本に初めて出会ったのはちょうど息子と離れて暮らすようになった時期です。親の都合で離婚し、離れ離れに過ごすようになった息子と2年間会うことがありませんでした。その時に出会った本が、『ラヴ・ユー・フォーエバー』でした。
その当時、保育関係の仕事に従事していた私にとって、絵本はいつも身近な存在でした。離れて暮らしていても、心はいつも息子のことでいっぱいでした。息子の誕生日が近づくにつれ、会うことは叶わなくても「母」としての思いを伝えたいと思いつつ、悶々とした日々を過ごしていました。ある日、ふと立ち寄った本屋の絵本コーナーに『ラヴ・ユー・フォーエバー』が展示されていました。タイトルに惹かれ思わず手に取り、読み進んでいくうちに「これだ!私の思いが詰まった内容だ!」と思い、即座に購入しました。そして27歳になった息子へ、手紙の代わりにこの絵本を郵送しました。「あなたが生まれた日は12月だったけれどお天気が良く、温かい穏やかな日でした。お母さんの一番幸せな時期は、あなたがお腹にいた頃、もう私は一人ぽっちじゃないと思える時間でした」と書いたメッセージカードとともに…。

仕事が忙しく、幼い息子とゆっくりと過ごせる時間は、就寝前のほんのひと時でした。毎晩一冊の絵本と出会い、息子と絵本の世界の住人として色々な世界を旅してきました。その思い出は、息子が成人したのちも息づいているだろうか…。 息子の27回目の誕生日に、その答えは返ってきました。留守番電話のメッセージに、「かあさん、僕を生んでくれてありがとう。ずっと感謝していたよ」。幼いころに読み聞かせをしてもらった温かな空間と時間の流れは、かけがえのない親子の共通の記憶として息づいていました。

現在、大学教員になった私は、学生に語り継いでいます。
「アイ・ラヴ・ユー いつまでも アイ・ラヴ・ユー どんなときもわたしが いきているかぎり あなたは ずっと わたしのあかちゃん」

館長賞 さっちゃん賞

山田 香恵子 さま
『かみさまからのおくりもの』 作:ひぐちみちこ 
出版社:こぐま社

その絵本と出会ったのは妊娠8か月、おめでたの喜びもつかの間、不安が始まった頃でした。8か月検診で医師から胎児の病気を告げられたのです。治るの?無事に産まれてくるの?疑問が頭の中をぐるぐる回っていたことを今でも覚えています。不安を抱えきれず電話した相手は、食道閉鎖で生まれてきた子を持つ友人でした。友人は時折涙まじりになる私の話を黙って聞き、そして自分の体験を話してくれました。

数日後、友人から一冊の絵本が届きました。ひぐちみちこさん作の『かみさまからのおくりもの』。メッセージには「私の大好きな本を送ります」と書かれてありました。5人の赤ちゃんそれぞれに贈られる神様からのプレゼントのお話。毎日のようにその絵本をながめながら、「芽生がもらうプレゼントは何だろうね」とお腹に語りかけていました。その頃には芽が生きのびてくれますようにと芽生(いぶき)と呼びかけていましたから。

9か月に入った頃、産婦人科の医師から大きな病院に移った方がいいだろうと言われ、出産まで入院することになりました。入院前夜、「しばらく離れるから読んであげて」と『かみさまからのおくりもの』を主人に渡しました。読み聞かせなどしたことがない主人が、照れながらも芽生に読んであげました。そしてそれが私達夫婦が芽生にしてあげた最後のお話になりました。翌日病院で心音が止まっていると聞かされた時、どんなに嘆いたことでしょう。芽生に読んであげることができた唯一の絵本、友人からもらった一冊は棺の中に入れ、もう一冊私が持っています。羊水過多で苦しそうにしている私を見かねて自ら天に召されたとすれば、芽生がもらったプレゼントは「思いやり」だったのだと思います。 あの日から22年、『かみさまからのおくりもの』は、今も書棚に置いています。私と娘(芽生)をつなぐ大切なものとして。

笑顔賞

沼上 ゆかり さま
『ノンタンいたいのとんでけ~☆』 作・絵:キヨノサチコ 
出版社:偕成社

猫が大好きな1歳の娘が気に入ったのは「ノンタン」の絵本でした。
図書館に行くたびに「読んで読んで~」とせがんでいました。中でも「いたいのとんでけ~」はフレーズが面白かったようでよく読んでいました。ある時娘が風邪を引き、病院に行きました。具合が悪そうで診察中も大泣きでした。暗い気持ちのまま薬局の行くとそこに「ノンタンいたいのとんでけ~」が!
娘はすぐにそれを見つけ本棚から持ってくると少し明るくなった顔で「ママ読んで」と言いました。読み終えると名前を呼ばれたので受付に行くと薬剤師さんがにっこりとして「お母さんの読む絵本を安心した顔でしっかりと聞いていましたね、私ももう一冊聞きたいくらい」と言って下さいました。どうやら娘の嬉しそうな顔を見て読み終えるまで名前を呼ぶのを待っていてくれた様でした。その配慮に感謝しつつ、娘にとっていつも読んでいる絵本が安心できる存在になった事をうれしく思いました。おかげで帰り道は二人とも良い気分で帰れました。
今2歳になった娘は私がどこか痛いと言えばすぐに駆け付けて「いたいのとんでけ~☆」と言ってくれます(笑)
心と言葉の成長の為にもこれからもたくさん絵本を読んであげたいと思いました。

元気が湧く賞

佐々木 晋 さま
『ぼちぼちいこか』 作:マイク・セイラー 
絵:ロバート・グロスマン 
訳:今江祥智 出版社:偕成社

インドネシアで暮らしていた時、大きな暴動が起こって社会が大混乱に陥ったことがある。犠牲者になった人は千人を超える大惨事だった。仕事どころではなかった。危険なので外に出ることもできない。ただ家にいるよりない。大喜びしたのが、4歳と3歳の子どもたちだった。幼子たちにとっては、父親がずっとそばにいてくれるのは大歓迎だった。私は遊んだ。子どもたちと朝から晩まで遊びまわった。庭を走り回り、段ボールで宇宙船を作り、何冊でも求められるままに絵本を読んだ。いくら無心に遊ぼうとしても、漠然とした不安は去らない。会社は再開できるのだろうか。もとの生活に戻れるのだろうか。不安な気持ちが顔に出てしまったのか、子どもたちが「おとうさん、だいじょうぶ?」と心配そうに訊いてきた。弱気の虫になっていた私は、子どもたちに甘えたい気持ちもあって、つい正直に答えてしまった。

「これからどうなるんだろう?また仕事に行けるのかなあ?」
それを聞いた子どもたちはすぐに父親を元気づけようとした。
「ええこと おもいつくまで ここらで ちょっと ひとやすみ」
「ぼちぼちいこか ということや」
それは何度も繰り返し読んだ絵本の中のセリフだった。何をやってもうまくいかないカバくんがそう呟くのだ。子どもたちは、父親が置かれている状況を幼いながらも理解し、カバくんの言葉を借りて励まそうとしたのだ。そうだ、まさしくそうだ。今はひと休みする時だ。焦ることはない。ボチボチやっていけばいい。妻も子どもたちも健康で明るく暮らしている。それだけで充分幸せだ。私の沈んだ心が軽くなった瞬間だった。

親のピンチを救ってくれた幼き人たち。子どもたちは絵本から生きる勇気を学び取っていた。そして、私もやっとわかった。絵本は子どもたちに読んでやるためだけにあるのではない。そこには大人にとっても大切なことが書かれているのだと。