入賞作品

グランプリ 最優秀作品賞

小山 夕実 さま
『おばあちゃんがいるといいのにな』 作:松田素子 絵:石倉欣二 
出版社:ポプラ社

私は母の顔を知らない。幼い頃「家庭の事情」で母はいなくなったらしく、私の母は祖母だった。祖母はまるで本当の母親のようにお世話をしてくれ、私に色々なことを教えてくれた。そしてとても厳格だった。

幼稚園から帰るとスケジュールが組まれていて、5歳児らしからぬ生活だったように思う。習い事ではうまくできていないと出来るまでやり直し。お勉強は小学生と変わらない内容を滾々と教え込まれ、身の回りのことは極力自分で管理する。折り紙やあやとりで一緒に遊んでくれたが、それも教育の一環だったのだろう、おままごとなどで遊んでくれることはほとんどなかった。
ただ、そんな祖母が優しい顔、優しい声で語りかけてくれる時間、絵本の時間が私は大好きだった。祖母の膝に座り、じっとお話を聞く。桃太郎、かぐや姫などの昔話や、どこから持ち出したのかわからない古びた絵本、ご近所さんからもらった絵本。決して新しくはないが、沢山のお話を聞かせてくれた。その中でも鮮明に覚えている絵本。その絵本の後に、祖母は涙を流した。
絵本の内容は、優しいおばあちゃんと過ごした日々や最期の時を、主人公である孫が振り返り、その優しさ、温かさを再認識するというもので、当時の私には「孫との別れを思って悲しくて涙が出ちゃったのかな。」くらいにしか祖母の気持ちを量ることは出来なかった。

そして、そんな祖母も私が小学3年生の夏、息を引き取った。祖母は最後に話したときに、私に言った。「優しいおばあちゃんじゃなくてごめんね。」この一言で、私はあの時の涙の意味を理解できた気がした。祖母は、本当は「優しいおばあちゃん」でいたかったのだ。でも、私が「あの子、おばあちゃんが育ててるから」と後ろ指をさされないよう、祖母がいなくても強く生きていけるよう、決して甘やかさなかった。
祖母は私にとって「世界一優しいおばあちゃん」であったことを教えてくれたこの絵本に、感謝している。

館長賞 さっちゃん賞

和田 静香 さま
『やさしいライオン』 作・絵:やなせたかし 
出版社:フレーベル館

コロナ問題が出てから、施設で暮らす母に会いに行くことができないでいる。昨年、もっと頻繁に会いに行けばよかった。いや、それより施設ではなく、もっと他の選択があったのではないかと、最近考えるようになった。離れて暮らす母の事を思いながら、一冊の絵本が私の頭をよぎった。やなせたかしの「やさしいライオン」だ。

年老いたやさしい母親と母親思いのやさしいライオンの話だ。人間も動物も、やがて親から離れ、一人立ちを迎える。寂しくて、苦しい夜には、遠い日々を思い出す。幼い頃、母親の愛情に温かく包まれていた日々を。
会いたい、会えない。あんなことしてあげたいな。あの話をきいてもらいたい。そんな思いがぐるぐると巡り、胸にグサっと突き刺さった。いつも笑顔を絶やさない働き者だった母が大好きで、母さえいれば私の心はいつも安心で満たされていた。そんな自分は今、東京で暮らし、母を施設で暮らさせている。自分が不道徳な娘に思えてならない。

いずれ母は、先に旅立つだろう。そのとき、私はその悲しみをどうやって乗り越えて行くのか。愛する人がこの世から去っても、残された者は生きていかなくてはならない。それなら私ができる事は、一つでも多く母との思い出を増やしていくことだ。特別なことでなくて構わない。一緒に食事をしたり、散歩をしたり、笑ったり。そうした思い出は、決して色褪せることなく私の中で大切な宝物として生きるはずだから。

日々の慌ただしい生活の中で、どこかへ置き忘れていた母への愛情をこの絵本が思い出させてくれた。このライオンのように、母をしっかりと抱きしめ、やさしく包んであげよう。母がいつもそうしてくれたように。

笑顔賞

洲鎌 順子 さま
『いつもいっしょに』 作:こんのひとみ 絵:いもとようこ 
出版社:金の星社

ごはんを作り、家族で食事と団欒。その後、お風呂に入れて、読み聞かせと寝かせ付け。一人目の育児休暇はそんな生活でした。
年子の姉妹が生まれて、双子のように育てられたらと願っていました。なんと、そしたら願いは叶い、本当の双子に恵まれました。

「お母さん抱っこ」「お母さんちょっと来て」「お母さん聞いて」「お母さん、あのね・・・」お母さんになることに憧れ、願いは叶ってお母さんになれたのに、お母さんと呼び続ける声。そして、泣き声。私は段々、日々の生活に疲れてきました。
どうして呼び続けるの?なぜ泣くの?どんどん、(どうして?)(なぜ?)が積み重なり、ストレスが溜まっていきました。
そんなある日、クマが笑顔でスープを持っている絵本の表紙を見て、自分の理想のお母さん生活を思い出し、この本を購入しました。読んでみると、主人公のくまは私そのものでした。

ひとりぼっちだったくまは、ある日突然やってきたうさぎと、一緒にいるだけで嬉しかったのです。しかし段々、何も言わないうさぎに対してストレスが溜まっていきます。ある日、大きな声で「どうして何も言ってくれないの?」とうさぎに言ってしまいます。翌日、うさぎがいなくなります。「そばにきみがいるだけで、ぼくはしあわせだったのに」とくまは泣きます。うさぎがいなくなって、当たり前と思っていた一緒にいることの大切さに気がついたのです。いっぱい泣いて目が覚めて、隣でうさぎが寝ているのを見て、いなくなったのは夢だったと分かり、うさぎを抱きしめます。

娘達と一緒にいることが当たり前になっていた私。私はどんな気持ちで娘達と過ごしていたのでしょう。私の子供として生まれてきてくれたこと、一緒にいてくれること、それだけで私は幸せです。娘達、ありがとう。

元気が湧く賞

けーしま さま
『フェリックスの手紙—小さなウサギの世界旅行』 作:アネッテ・ランゲン 
絵:コンスタンツァ・ドロープ 訳:栗栖カイ 
出版社:ブロンズ新社

3歳で小児がんを発症した私は、みんなが幼稚園や保育園で友達と遊んでいる期間を病室で過ごした。その時に大好きだった絵本が、“フェリックスの手紙 —小さなウサギの世界旅行”だった

大好きなぬいぐるみのフェリックスを空港でなくしてしまい、しょんぼりしていたところにフェリックスからの手紙が届くのだ。なんと、フェリックスは飛行機を間違えて別の国に行ってしまっていた。「ついでにほかの国にもいってみるね」なんてのんきなことを言って、フェリックスは世界中を旅して、いろんなところからソフィーに手紙を送るというお話だ。フェリックスの手紙が封筒ごと絵本にくっついていて、自分で手紙を開けてフェリックスの手紙を読むことができるのだ。まるで自分がソフィーになったように“次はどの国から、どんな手紙が来るのだろう?”とワクワクしながらページをめくるのが楽しくて仕方がなかった。フェリックスはソフィーだけでなく私にも広い世界を見せてくれたのだ。見舞いに来た母と、毎日のようにこの絵本を読んでいた。

時は経ち、少し障がいが残ったものの、幸いなことにがんは根治し、大人になることができた。ふだんは会社員として働いているが、長期の休みが取れると決まって飛行機に乗り、大きなリュックひとつで旅をしている。
仕事に復帰しなければならないので往復の飛行機だけは必ず確保するが、何をするかは全く決めていない。
それどころかスタートとゴールの国が全く違うこともざらである。「ついでにほかの国いってみるか」なんて思いながら2週間で5か国を訪れることもある。気ままな旅でいろんな人と出会うし、初めてのことしかない。

フェリックスと違い言葉が通じないもどかしさもあるが、未体験のオンパレードは楽しくて仕方がない。ありがとうフェリックス。旅人としての私の原点は、君だ。

絆賞

感王寺 美智子 さま
『きみがいないと If Not for You』 詩:ボブ・ディラン 絵:デイヴィッド・ウォーカー 訳:ドリアン助川 
出版社:イマジネイション・プラス

乳癌になった。転移も見つかった。手術、放射線と、気合で乗り越えたが、抗癌剤で、髪の毛が、ごそっと抜け始め、さすがに落ち込んだ。「もう、女性としての私は、いなくなった」
女性ホルモンを抑える薬を、10年間も、飲み続けられなければならないという。泣いて夫に、あたった。
そんな私に、夫は、一曲の歌を歌ってくれた。♪ If not for you……ボブディランの歌だ。
私が、不機嫌な時は、ウクレレを掻き鳴らし、ひょうきんに、私が悲しみに沈んでいる時は、子守唄のように優しく。聴くと心が落ち着いた。

それから私は、夫と共に、1年1年を重ねるように生きた。そして、昨年暮れ、ようやく加療終了の10年目を迎えた。「合格!卒業よ!」
病院で、10年目の検査を終え、家へ帰ると、机の上に、一冊の絵本が置かれていた。
表紙には、手を繋いで歩く、二匹の犬の背中が描かれてある。「ふふ、かわいい」

手にとって、開いてみる。
ぬうっとした大きな犬。なんだか夫に似ている。思わず笑みが浮かぶ。
 もし きみがいないなら
 きみのためにうたえないなら
一匹の犬が、一匹の犬を、ただ、思っている、シンプルなストーリーだ。
「……あ……この詩……」
ハッとした、その時、隣の部屋から、歌声が聴こえてきた。
♪ If not for you me Babe……
私も声を合わせた。
🎶 I couldn't find the door Babe……
ドアを開けると、微笑む夫が立っていた。
【きみがいないとーIf not for you me 】
大切なものは、シンプルだ。
この絵本は、私の宝物となった。